ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い

【其の六拾四】文化事業再考……『渋谷KONNOHMARU伝説』

2011年1月

渋谷カブキ音頭の練習に取り組む参加者の皆さん

本当に暑かった今年の夏。そんな夏のど真ん中8月17日にそのプロジェクトはスタートしました……新作カブキ踊り『渋谷KONNOHMARU伝説』。これは、渋谷区が11月にオープンさせる総合文化施設「渋谷区文化総合センター 大和田」内に作られる「伝承ホール」の柿(こけら)落し公演のために、古典芸能の世界でマルチに活躍する鈴木英一氏がプロデュースし書き下した作品。フィナーレには公募で参加を申し込んだ渋谷区民の皆さんによる日本舞踊をベースにした「渋谷カブキ音頭」が披露されるのですが、そのためのワークショップが立ち上がったのです。

源氏の忠臣、金王丸(こんのうまる)は、平安時代末に渋谷氏の血を引く豪傑。渋谷川と桜の精の不思議な力により誕生した金王丸(こんのうまる)は、頼朝、義経ら源氏の御曹司(おんぞうし)の危機を救うため、ひたすら走る、走る、走る……そんな物語を、当代きっての花形歌舞伎俳優・市川染五郎さんや気鋭の日本舞踊家・尾上青楓(せいふう)さんと尾上京(みやこ)さん、さらに日本のラップ界を代表するひとり・ケーダブシャインさんが競演するというもの。地元の伝説や英雄譚などを仕込んだ市民参加型ミュージカルなどは全国各地で行われる傾向にありますが、大都会東京でもこんな掘り起こしができるものかとあらためて思い知らされました。

「染五郎さんと渋谷でカブかん!」をキャッチフレーズに集まった小学校低学年の子どもたちから喜寿を迎えたシニアまで、最終的には約80名が、猛暑の夏から落ち葉散る晩秋にかけて、建設中の施設内に部分完成していた体育館で、汗にまみれになって厳しい稽古に明け暮れました。「渋谷カブキ音頭」の振付をされた市川染五郎さんは、松本錦升(きんしょう)という名で日本舞踊松本流の家元でもありますが、歌舞伎の舞台で多忙な染五郎さんに代わっての指導は松本幸龍(こうりゅう)さん。参加者の心を掴む熱い指導で、日本舞踊初体験の子どもたちを中心とする皆さんを見事にまとめ上げました。本番前1週間は染五郎さん直々の指導でしたが、そのお人柄と、特に子どもたちに何かを“伝えたい!”という情熱が参加者からスタッフに至るまでに伝わる感動体験でした。

本番は2回に分けて行われましたが、共に満席の大盛況。「子どもたちをはじめとする参加者の元気な笑顔がすばらしかった」「自治体の文化事業としてぜひ継続すべき企画だ」など、賞賛の声を各方面からいただき、“伝統芸能による地域密着・参加型事業”の制作に携われた意義と喜びを深く感じました。公演も無事終わり、汗を流した体育館で修了式が行われましたが、参加者一人一人に自筆の修了証書を手渡される染五郎さんと満面の笑みで受け取る子どもたちの姿は再び感動的でした。

「あちらを立てればこちらが立たず」……現政権が抱える苦悩も計り知れないものと察します。早急に手を打たなければならないことばかりかと思いますが、文化政策もそのひとつであることは言うまでもありません。とりわけ伝統芸能というジャンルは、国や自治体の文化事業とのタイアップが不可欠であることを、今事業を通して強く再認識した次第です。


(2011年01月 COLARE TIMES 掲載)

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