ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い

【其の弐拾八】もの想う秋

2003年11月

秋風に たなびく雲の 絶え間より 漏れ出づる月の 影のさやけさ
藤原顕輔(新古今和歌集)

秋風に吹かれてたなびいている雲の切れ目より、漏れて射し込む月の光が、なんと澄み切って美しいことよ!

 立山連邦を遠目に、黒部の“ピリッと緊張感のある空気感”を想像しつつ、思わずこんな和歌が心に浮かんでしまう今日このごろです。今年は、夏に「らしさ」を感じなかったので、余計に季節感が恋しく思われるのでしょうか。ちっちゃくても「秋」を見つけるとホッとしてうれしくなります。長唄に「秋の色種(いろくさ)」、箏曲に「秋の曲」、端唄に「秋の夜」……題名だけでも秋を冠した古典曲の何と多いことか。普段の生活が季節というものと深く関わりを持っていて、そんな関わりの中から文化が生まれていた時代がしのばれます。

 昨年から、共立女子大学文芸学部の非常勤講師を仰せつかっております。私が担当している授業は、「音楽の世界 東洋音楽」という科目です。

 前期は、雅楽の笙奏者の真鍋尚之さんで、「雅楽に見る日本人の美意識」というテーマで、演奏や装束の着付け等の実演も交えて展開なさったそうです。八王子の山々が色づき始める季節、後期授業からが私の出番で、「三味線、その世界」と題してスタートを切りました。舞台制作現場の最前線で動き回っている私が、アカデミックな話をしても仕方がないと考え、伝統芸能のプロデュースや舞台づくりの実際、現代と向い合いつつ活動する三味線を中心とする邦楽器及びアーティストの紹介等をビデオ映像を観せながら、とにかく“眠くならない授業”を心がけて講義しています。もちろん単なる教養講座に終わるのは悔しいので、かなり過激な持論も学生たちにぶつけて、過激な反応を期待したりもしています。実際に三味線を弾かせたり、長唄三味線の<伝の会>や津軽三味線の<あんみ通>に教室ライヴをやってもらったり……毎回毎回の授業の構成にプロデュース感覚を活かして展開しているつもりなのですが、その意味伝わるかなぁ? 初回の立ち上がりの授業のとき、概論として「現代社会における伝統芸能の受容の実際」を解説しました。テレビCMに登場する邦楽器やワイドショウに登場する吉田兄弟や上妻宏光のことを話した後、彼らが様々な女性誌にもファッショナブルに紹介されている実際を見せようと考え、サンプルの某誌を数冊、教室内に廻すことにしました。「プロデュースとは、表現と現代の接点を作り出すことで、そのコンセプトとしてエンターテンメントでありアートであることが……」なんて喋っていたのですが、気がつくとさっき廻したはずの雑誌がぜんぜん進んでない!「ん?」と思って、先生を気取って(先生か!)机の間を回ってみました。ヤラレタ! 何と女性誌のお洋服とジュエリーのページにお目目クギ付けの彼女たち。

 着地点を見据えつつ、「すべて現状からのスタート」「常に今、眼前にいらっしゃるお客様の視線に立って」そんな思いを自分なりに再認識でき、20歳前後の若い世代の感性と向かい合うことでマーケッティングの現場とも言える「教室」という空間。伝統芸能を通して「今とこれから」の社会を考える素材を学生たちとギブ&テイクできるよう、半年間思いっきり揉まれてみようと思っています。

APAN WEEK公演後の記念撮影

9月25日、大田(テジョン)で行われた『JAPAN WEEK』における「長唄三味線(細棹) VS 津軽三味線(太棹)!」で競演した<伝の会>と<あんみ通>。公演は大ウケ! 大成功の後、気持ちのイイ記念撮影。

(2003年11月 COLARE TIMES 掲載)

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