ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い

【其の弐拾伍】満開の桜の下……

2003年4月
世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし
 「古今和歌集」(915年頃成立)にある在原業平の名歌。<もしこの世の中に、まったく桜というものがなかったならば、さぞかしのどかな心で春を過ごせたであろうになぁ> えっ! 桜がなかったら春がのどか? 逆じゃないの? いいえ業平はちゃんと核心を衝いているのです。<桜があるからこそ、「いつ咲くか、いつ散るか」と桜のことが気になって仕方がない。だから私たちの気をもませる桜というものがなかったならば……>という“今”を生きる私たちの心情と置き換えてもまったく差し支えのない思いが表現されています。「古典」とは、過去に創られた優れた作品で、時代を経てもそのメッセージが生き生きと伝わってくるものであると常々思っています。

 古典の世界では、花といえば桜の花を意味し、桜を「花王」とも書きます。そして花見の習慣は平安時代の文献にも散見できます。美しく咲き誇る桜を見て心癒されたり、想像力を喚起したり、散り行く花を見て感慨にふけったり……、そんな行為が春の習慣になって、生活の一部として溶け込み受け継がれ現在に至っているわけです。「伝統」とは、普段の生活の中から生まれ、生活の一部として定着し、日常の生活の延長上に肩肘張らずに位置付けられるものであると常々思っています。

 現在、“古典”芸能、“伝統”芸能がブームといわれています。(人ごとじゃありません。伝統芸能企画制作オフィス「古典空間」じゃないですか!)テレビCMにおける日本の楽器、日本の音の使用頻度には目を見はります。マクドナルドのCMのバックに津軽三味線が流れているなんて、10年前を思い返すと「うっそー! 信じらんな~い!」って感じです。“特別なもの”であったジャンルが随分身近になりました。

 このブームを一過性のものとして終わらせたくはないものです。今年も6日間にわたり「平成邦楽レボリューション Vol.5」というライヴシリーズを行います。早いもので5年目を迎えますが、今年を最終回にしようと思っています。少しでも裾野を広げるべく、邦楽器に自らを賭ける若手アーティストの皆さんと共に立ち上げた企画でしたが、すでに「レボリューション」の時代は終わり告げています。今求められていることは、より「進化=深化」したクオリティの高い音楽やライヴ空間を邦楽シーンで創造することなのです。このシフトチェンジこそ、ブームではなく地に足をつけた真の「古典、伝統」芸能の展開ではないかと考えるのです。
 満開の桜の下、もの想う今日この頃。

(2003年04月 COLARE TIMES 掲載)
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