ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い

【其の伍】秋の夜長に、たまには真面目にひとり言。

1998年11月
 いきなり縁起でもないことから始めるようで申し訳ないのですが、世の中やっぱり不況です。俗に言う一流大学出で世に言う一流会社に入った友人がいきなりリストラにあって失業……まわりはそんな話ばっかりです。そんな時に仕事の依頼をいただくことは、この上ない幸せと言わなければなりません。そして、こんなお電話を度々いただくのです。「洋物が続いてるんで、今度は和物やりたいんだけど、何か面 白い物ない?」「三味線でローリングストーンズやってもらいたいんだけど!」気持ちはよ~くわかります。和物もストーンズもスーパーOKだし、これを形にするのが仕事なんですが、正直「どーしたらいいんだろう。どこから始めたらいいんだろう」と頭を抱えます。

 伝統芸能、古典芸能……実に重いですね、この言葉の響きは。伝統とか古典とか聞くと「ワンカンナイ、トッツキニクイ」そして「今時珍シイ、和物」というイメージが、現在ではすでにひとり歩きをしているように思えます。

 そんな芸能ではありますが、現代の、日本文化ということに対してアイデンティティ(※)を失いつつある我々にとって、やっぱり大切にした方がいいものではないかと思います。ただ、大切にすると言っても「守る」という言葉は使いたくありません。現段階ではこのジャンルにおいては「守る=単なる再現」を意味するからです。先人が創り上げてきた表現を受け継ぎ、現代という時代を生きる我々のフィルターを通 して表現しようという「意識」を明確に持つことが必要なのだということです。もちろんアーティスト個人のレベルでは、修行中のある期間においては、師匠の技術の再現に勤めなければならないことはいうまでもありませんが、それだけで終わってしまっては何も伝わらないのではないかと考えるのです。よく“時代の子”という言葉が使われますが、芸能はまさに時代の子だと思います。例えば、歌舞伎だって江戸時代は現代劇だったわけです。鶴屋南北の芝居なんて古典的な題材に取材しても、いかに鋭く時代の様相を切り取っていたか。“今時珍しい和物”でも、珍しいものは一回見てしまえば、珍しくも何ともなくなってしまう。末永くこの芸能の本当の素晴らしさを感じていただくためには、どんな企画が必要なんだろう。お電話をいただく度に、こんなことをマジで考えて眠れなくなって……。秋の夜長です。

※アイデンティティ
今流行の言葉。簡単に言えば「自分が自分であること」ということでしょうか。つまりは「私は日本文化の中で生きています!」と胸を張って言えるかどうか、ということ。

(1998年11月 COLARE TIMES 掲載)
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