ラレコ山への道:国際交流員「目からウロコ」

#21 Haunted Houses

2020年10月

 秋を想うと、爽やかな風で舞っている落ち葉、焼きたてアップルパイのシナモンの香り、着心地の良いふわふわセーターなど、温かな思い出がすぐ頭に浮かんできます。しかし、他に浮かんでくるものと言えば、ボロボロになったビクトリア時代の不気味な屋敷です。なぜこんな怖いものが出てくるかと言えば、ハロウィンが近づいているからなのはもちろんですが、もう少し突っ込んで考えると、それより深い意味が見つかるはずです。

目からウロコ
 皆さんは「haunted houses(お化け屋敷)」をすでにご存知だと思いますし、訪れたこともあるではないでしょうか。ホラー映画で背景としてよく使われる「haunted houses」は10月頃、ユニバーサルスタジオなどの遊園地でアトラクションとして設置され、勇気があれば挑戦することもできます。確かに、日本語のウィキペディアで検索してみると、「お化け屋敷」の定義は「お化けの出そうな状況を作り出して客に恐怖心を煽るために作られた娯楽施設」ということです。欧米では、遊園地のお化け屋敷はもちろんありますが、人間が作ったものでない本物の「haunted houses」もあると思われています。

 欧米でも、「haunted houses」はかなり最近できた概念です。英語で「haunted house」を検索するとまず、ビクトリア時代風の朽ちた屋敷の映像が出てきます。このイメージの由来は、ビクトリア時代(1837年 – 1901年)で、高額所得者には好景気であった1870 – 1890年代に根ざしました。この「金ピカ時代」と呼ばれる時代、工業化により、貧しい人々や中流の人々にもお金が入り、階級を上げることが以前より可能になってきました。この時代、上流のお金持ちは先祖伝来の家に居住していましたが、この新規の財産家にはそのような雄大な邸宅の相続はありませんでした。その結果、上流社会に溶け込むように、また新しく得られた裕福さを誇示するために、成金たちは自分の家を建てることにしました。しかし、この新しく建てた屋敷は結局、上流の人々から「センスがない」「目障り」「けばけばしい」などの批判を受けました。長く残る石材の代わりに崩れやすい木材の使用が多く、いろいろな建築様式を無理にまとめ上げたため不釣り合いで、家の外面は複雑で派手な装飾物を過剰に飾ったこの家は、元々から「怪異」と呼ばれていました。

 ビクトリア時代の終わりと19世紀の始まりに伴い、こういう屋敷は「廃れた」と思われ、新聞に「雑種の家」として扱われるようになりました。そして1929年に世界恐慌で打撃を受けてから、この過飾な家の多くが手放され、手入れの大変な家はすぐ腐食していきました。残った抜け殻みたいな家は当然、「腐敗」や「死」の象徴となりました。

目からウロコ
 1930年代から、漫画の「Addams Family(アダムス・ファミリー)」やアルフレッド・ヒッチコックの「Psycho(サイコ)」のように、ホラーの話や映画は当たり前のようにほぼ全部、ビクトリア時代風の古びた家を舞台にしています。かつてからの遺物が“幽霊が出そう”な「haunted houses」になったのも無理はないと思います。

 「haunted house」を訳すと、日本語で「お化け屋敷」となりますが、元々の英語の単語はより深く、含みのある意味を持っています。「to haunt(動詞)」は、「(幽霊が)出る」だけではなく、「(何かに)憑く」「出没する」「取りつく」「長く(記憶に)残る」「心につきまとう」などの様々な意味もあります。簡単に言うと、「出来事とかトラウマの後にも、影響が続いている」というイメージです。そこで、「haunted house」と言うと、「憑かれている屋敷」という意味になりますが、憑いているのは必ずしも幽霊ではありません。

 日本のネットフリックスにある「The Haunting of Hill House(ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス)」は私が最も大好きなドラマのひとつで、「何が何に憑いているのか」という質問を深く探ります。このドラマで、クレイン家の家族はヒルハウスという屋敷に引っ越しますが、入居後に奇妙な事件が起こりはじめます。この興味をそそる物語の舞台は、ふたつの時代に渡っています。5人の兄弟がヒルハウスに住んでいた子どもの頃、そして20年後にその兄弟が大人になってからの時代です。ヒルハウスには幽霊も出ますが、物陰に潜む背筋が凍るほど怖いものもあります。話が進むにつれて、人間は、悲劇、トラウマ、裏切り、悩み、後悔、情念、依存症、怨念など、いろいろなものに取り憑かれる可能性があるのだとわかってきます。ヒルハウスには幽霊が出ますが、取り憑かれているのはその家に住んでいる家族です。ドキドキさせられたい気持ちに襲われる10月に、ぜひ、ぜひご覧ください。日本語字幕付きです!

 欧米の国々では、秋と言えば「収穫」の他に、「1年の最期の瞬間」や「死」などの「終わり」の概念を連想します。葉っぱが木から落ちます。草が枯れます。空気が冷えます。冬が近づくと、「これで、年が死んでいく」という考えが浮かびます。この秋と同じように、ビクトリア時代から残っている「haunted houses」も死んでいるかのようです。ボロボロになり、人間に捨てられ、この世から忘れられた家を見るたびに、「終わり」を連想させられます。この家はかつて人間を受け入れてくれました。家族を守ってくれました。そして、かつて住んでいた人間が変わったように、その家も変わっていきました。しかし、その時代が終わっても、中で起こった思い出が消えるわけではありません。思い出は、その家の壁、床、天井に憑いてしまうかもしれません。

 「haunted houses」はホラー映画や怪談のように、私たち人間が抱いている恐怖をあらわにします。何に取りつかれているのか? 真夜中に、何が頭に浮かんでくるのか? 暗闇には、何が出るのかな?

 

目からウロコ
「haunted house」と検索すると、出てくる画像。

目からウロコ
逆に、「お化け屋敷」と検索すると、出てくるのはこれ。

目からウロコ
1884年に建てられた「Winchester Mansion(ウィンチェスター屋敷)」。現在でも幽霊が出ると思われています。

目からウロコ
典型的なハロウィンの映像です。ビクトリア時代風の屋敷に見えるでしょう!

(2020年10月 COLARE TIMES 掲載)

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