ユーゴ・ラシャペル #30

日本の魅力(4)他人を思う
 
 私が思う「日本の魅力」は7つあり、これまで3つを紹介してきました。交通、治安、自然と、今まで紹介したのは、環境に関することでした。今回紹介する魅力は、ちょっと違います。日本への留学後、また日本に戻りたくなった理由の中で、たぶん最も感動したものだと思います。
 8年前、私は日本に留学しに来ました。他の留学生たちと違って、日本については何の期待もありませんでした。日本の文化にはちょっと触れていましたが、夢中になっていたわけでもないし、日本で求めるものは日本語能力の向上しかないだろうと思っていたので、生活については何の期待もしていませんでした。文化の違いに慣れた人に従っていればうまくいくだろうと思い、その面ではうまくいきました。しかし、ハプニングがありました。
 私は子どもの頃にいろいろあって、それがトラウマになり、他人に話しかけるのが恐くなっていました。話しかけられるのは平気だし、親しみを持って接することができるのですが、自分から話しかけることが苦手でした。なので、誰かに話しかけることもなく、不便のない日常生活を送っていました。そんなとき、日本語の勉強のために、他人に声をかけるという課題が与えられました。私にとっては大変なことです。怖くて、部屋に閉じこもってしまいました。
 カナダでもそんな場面が何回かありましたが、他人に話しかけるのが苦手だというトラウマはほとんどうまく隠せていました。隠せないときもありましたが、そのときは私の恐怖を認めてくれず、「あなたは変だ」と思われました。しかし、日本で先ほどの同じ状況になったとき、「あなたは変だ」ではなく、「あなたに何かがあった」ということに気付き、助けようとしてくれた人がたくさんいました。その助けは8年経っても忘れられません。私の気持ちに“思いやった”人……つまり、私の立場や考え方を理解しようとした人に、初めて会いました。
 すると、日本で話しかけることができるようになりました。ちょっとしたカウンセリングだけでしたが、「君が感じることは否定しない」というたったひとつの決まりのおかげで、私は癒されることができました。私の不安、恐怖、悲しみといった気持ちをすべて受け止めてもらえ、とても感動しました。日本で日本語の能力向上しか求めていなかった私は、期待していなかった「思いやり」という経験を得ました。日本語には、「思いやり」という言葉があります。英語やフランス語に翻訳しようと思ったら、同じ印象やニュアンスが伝わる言葉が思いつきません。辞書で調べても、完全にあてはまる翻訳がなさそうです。とても大事なことなのに、ない理由がちょっと不思議に思います。
 日本のいいところは、そこです。「思いやり」です。カナダや他の国にもないわけではありません。日本のようにみんな上手にやってはいませんが、帰国した時カナダでもやっと見つけました。「他人のことを思う」ということが存在していることに、感謝しすべきだと思います。そのおかげで、初めて私の気持ちを認めて尊重してくれる人に出会えました。出会えたのは、日本語が共通語として話されているたったひとつの国、日本です。
 今現在、その経験のおかげで、人に話しかけるのが楽になりました。道で会う人に「こんにちは!」とすぐに言えるようになったぐらいです。あの時支えてくれた人たちと、今私に心を配ってくれる人たちに、感謝の気持ちを伝えたいと思います。本当にありがとうございます。日本で得た「他人の気持ちを認めて、受け止める力」を活かして、これからも進んでいきたいと思います。

(2015年03月 COLARE TIMES 掲載)



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