ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い

【其の七拾九】今、どこから始める?

2013年9月

2013年7月16日、六本木にある政策研究大学院大学・想海樓ホールにて、「アートで子供たちの才能を引き出す」と題した文化庁主催のシンポジウムが、近藤前文化庁長官、青柳新長官出席のもとで行われました。

【チラシ】2013年7月16日 シンポジウム「アートで子供たちの才能を引き出す」

【チラシ】
2013年7月16日 シンポジウム「アートで子供たちの才能を引き出す」

開催趣旨は「美術や舞台芸術、伝統芸能などの文化芸術は、教育現場において子供たちの創造性やコミュニケーション能力等を育む上で有効であり、自らを律しつつ他人とともに協調し他人を思いやる心や感動する心など子供たちの豊かな人間性を育て、ひいては子供たちの『生きる力』を高めることに大きく貢献します。このシンポジウムでは文化芸術と教育に関わる有識者が集まり、教育現場における文化芸術の現状について話し合うとともに教育において文化芸術が果たす可能性やファシリテーターの活用など今後の在り方について考察します」という非常に有意義なものでした。

この理念をいかに実行し、実効を上げるか……美術、クラシック音楽、ダンスをはじめ、ジャンルを問わずワークショップやアウトリーチを実施している団体の最前線で活躍なさっているアーティストやコーディネーターの方々の事例発表とパネルディスカッションという構成でした。私もそのパネリストの一人に加えていただき、「伝統芸能の普及の実際と課題」についてお話しできる機会を得ました。

確かに私たちもこの10年、幼稚園から高校、大学と様々な教育現場で、年間約30〜50回の普及型公演活動を行ってきました。しかし毎回目的や要望が異なるのでそこに完成型などなく、そのプログラム(構成/内容)や実施方法に関しては、「普及」に粘り強い意識と情熱を抱く高度な技術力を有するアーティストの皆さんと、毎回「試行錯誤」「軌道修正」さらに「その場の“空気を読み”的確な“引出し”を開けられる力のブラッシュアップ」を繰り返すこと現在進行形です。

今回のパネリストの方々は、様々な方法論の実践と蓄積をなさってきた方ばかりで、特に「おもしろそう!楽しそう!」という気持ちにさせる“入口の作り方”の手法に関して、オーケストラや美術に携わる皆さんの手法は眼を見張るほどすばらしいもので、刺激的かつ多く学ぶものがありました。対して伝統芸能は……

(1)生まれた背景も背負っている現状も異なる多種多様な伝統芸能を一言で分析、解説することは至難の業であること(別表参照)
(2)方法論やファシリテーター云々を考える以前に、まずは「一度は観て聴いてみて!」という機会をつくり出すことから始めなければならない現実
(3)「伝統、古典」などの重い冠ゆえの先入観や普段の馴染みの薄さからか「今、伝統と向き合うことの大切さは理解はするが、その具体的なカタチがイメージできない」という会場内全体の雰囲気(筆者所感)
……などの理由から、他のパネルストの方々と同じ土俵に上がれていないのではないかという違和感を抱きました。

伝統芸能って? 音楽、演劇・舞踏、演芸、民俗芸能の四部門に分けられる

もう一つの違和感、それは伝統芸能以外のジャンルはすべて「外国文化の普及」であるという事実。我が国は明治以降、音楽においては、18―19世紀の西洋音楽(いわゆるクラシック音楽)を中心に学ばせてきました。日常生活が西洋化して久しい現在、もちろんその価値の本質を知る必要を大いに認めます。それゆえに、「比較対比」という切り口から双方の文化のより深い理解を目指す意味で、『国』が教育に改めて自らの文化=日本の伝統文化を導入するべきであると考えるのです。国という枠組みではなく自らの文化に誇りを持ち、追いかける者の性(さが)として抱くコンプレックスからの解放こそ、今、求められている教育なのではないでしょうか。文化と教育が一体であることに疑う余地はないのです。

2006年の新教育基本法では「伝統文化の尊重」が謳われています。そして2002年より実施されているはずの文科省の『学習指導要領』に、中学校では「3年間の内、1種類以上の和楽器を用いること」とあります。しかし一部を除いてその実現には程遠いことも事実です。本来ならば先生こそファシリテーターであってしかるべきですが、現在の諸制度の中では理想論と言わざるを得ません。「音楽」の授業内での実現が難しければ、新たに「日本文化」の授業を新設してはどうでしょうか。その授業では、能、狂言、日本舞踊、箏、三味線、尺八、鼓、華道、茶道、剣道、柔道……様々な伝統文化に「楽しくもしっかりと」触れることができるのです。各ジャンルの一線で活躍する人たちがファシリテーターとして教育現場と接点を持つことにもなり、「伝承者の社会貢献」という新たな価値の創出にもつながります。

アベノミクス……経済による社会の活性化も必須なのでしょう。しかし、その経済をも支える「人の心」を豊かにする「文化」に目を向けてこそより良い社会が生れるのだ、と確信した1日でした。

【写真】
日本舞踊のワークショップの風景。公共ホール自主事業の一環として実施。30名の枠に応募した日本舞踊初体験の子どもたち。

日本舞踊初体験の子どもたち

 

日本舞踊初体験の子どもたち

 

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