ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い

【其の六拾壱】梅雨入りに物想ふ

2010年7月

梅雨入り。降り止まぬ雨と湿気に、ある古典作品の一節が浮かびました。
『平家公達草紙(へいけきんだちそうし)』(鎌倉時代初期の成立、作者不詳)平家一門の栄耀栄華にスポットを当て、逆説的に滅亡してゆく平家のはかなさ空しさを描いている作品です。
安元元年(1175年)宮中、17歳の高倉天皇と平家一門ほか居並ぶ若い貴族たちのエピソード。

内の上仰せらるるよう、「雨うち降りて、つれづれなる夜のけしきかな。目さめぬべからむこともがな」と仰せらるれば、三位中将基通(もとみち)、「御遊びなどや」と申したまふに、「そも、ただ今、物の音など、澄みぬべうもあらず。うち笑ひぬべからむこともがな」とのたまわするに……。

高倉天皇が「雨が降って、チョ~退屈な夜じゃ、なんか目が覚めるような面白いことはないものかなぁ?」とおっしゃると、基通は「バンド(モチロン雅楽の)などいかがでございましょう?」と申し上げる。対して帝は「だけど、こんな雨の日、楽器は音的にヤバイはず。なんかドッと笑えることがあるといいなぁ!」とおっしゃって……。

楽箏(がくそう)

楽箏(がくそう)

日本の楽器は湿気が苦手であることを改めて認識するわけです。素材が木材や様々な動植物である諸楽器は、温度・湿度の影響をダイレクトに受けてしまいます。本番日の天候や演奏会場の諸条件(照明の熱、空調方式等)は、少しでも気持ち良い音を体感して頂きたいと切望する演奏家や私たちスタッフにとって、準備段階における最大関心事のひとつなのです。

箏、三味線など多くの楽器を積んだ乗用車が、ドシャ降りの通り雨に遭遇。駐車場に止めたまま2時間程の打合せを経て、外に出るとカンカン照り、車内は熱気でムンムン! この時節、最も冷や汗のにじむ瞬間です。

閑話休題、その後、平重衡(たいらのしげひら)が「盗賊に化けて中宮のそばにいる女房たちを脅かしに行こうぜ!」と提案。平維盛(たいらのこれもり)や藤原隆房(ふじわらたかふさ)らは「それマジいいじゃん!」と早速実行。重衡と隆房は着物を着替えて変装、維盛を見張りに立てて中宮(高倉天皇妃)たちの寝ている部屋に忍び込み、被っている着物を引き剥がす。女房たちは大絶叫。彼らの計画は見事成功。大喜びで帝のところに戻り報告すると、帝は「フビンじゃのう!」と言いながらも大笑い。こんな貴族のお坊ちゃんたちの何とも他愛もない行動の10年後の文治元年(1185年)、壇ノ浦の戦いで平家は海の藻屑と消え去り、鎌倉時代が幕を開けます。

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。

2010年6月、政治、経済、社会……現在の世情に、琵琶法師が語り伝えた『平家物語』の一節は永遠なり、を痛感するのです。


雅楽の諸楽器

楽琵琶(がくびわ)

楽琵琶(がくびわ)

大太鼓(だだいこ)

大太鼓(だだいこ)

笙(しょう)、龍笛(りゅうてき)、篳篥(ひちりき)

笙(しょう)、龍笛(りゅうてき)、篳篥(ひちりき)

(2010年07月 COLARE TIMES 掲載)

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