ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い

【其の伍拾七】唸って語れば

2009年10月

 昨今の「落語ブーム」は未だ衰えを知りません。人気者や実力者が出演する落語会のチケットは入手困難な状態が続いています。

 喋(しゃべ)って語って唸(うな)って、たった一人で老若男女を語り分ける。すると“絵”が見えてくる……落語、講談、浪曲など「語り芸」の魅力です。とくに24時間明るい都市部では、見えないからこそあれやこれやと想いを巡らす私たちから、想像力が退化しつつあるように思えてなりません。そんな現代人の心の隙間をしっかり埋める力を持っているところに落語隆盛の背景が見えてくるのです。しかも悲喜交々(ひきこもごも)の人間模様を「笑い」に昇華させ、明日へのエネルギー源を提供するのですから愛されないわけがありません。

 そして三味線。現在では伝統音楽の垣根を越えて様々なシーンで活躍していることはご存知の通りです。

 日に日に“日本文化の色”が薄まってゆく今日この頃。インターネットの普及、様々なメディアや交通網の発達により、世界のあらゆる情報や文化に容易に触れることができるようになった今、私たちは「自分が自分であること」つまり日本文化に対するアイデンティティーを感じる「言葉」や「音楽」を心のどこかで欲しているのかも知れません。

 説教(せっきょう)節、デロレン祭文(さいもん)、阿呆蛇羅教(あほだらきょう)など、さまざまな先行芸能を貪欲に吸収し、明治41年に桃中軒雲右衛門が劇場に進出したことで爆発的なブームを呼び、国民的エンターテイメントに成長した浪曲。義太夫節などの三味線をともなう「語り芸」の中では最も新しいジャンルです。一「声」二「節」三「啖呵(たんか)(セリフ)」といわれ、これらが三位一体となって人間模様を描き出します。そのわかりやすさとテンポ感、物語がクライマックスに向かうに従い、曲師が弾く三味線に乗ってたたみかけるように紡(つむ)ぎ出される言葉に陶酔(とうすい)してしまいます。歴史に名を残す浪曲師たちは、修行を経て先人の芸や名前を受け継いでも、そこにとど止まらずオリジナリティー溢れる「節」や強烈な個性を磨き上げ、自らの芸で時代を切り開いてきたのです。

 国本武春。語りと三味線における誰にも真似ることのできない圧倒的なテクニックと表現力、さらに自らのバックボーンと才能に埋もれることなく、時代と向き合い、伝統的な浪曲のみならず「弾き語り」で独自のスタイルを確立。音楽や芸能のジャンルという壁を超えて様々なコラボレーションを展開する実力は、アーティストとして、エンターテイナーとして、これからも世代を超えて人々を魅了し続けてゆくことでしょう。

ネオン華やかな渋谷の夜景

渋谷の夜景

(2009年10月 COLARE TIMES 掲載)

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