ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い

【其の伍拾四】ホーチミン35℃

2009年5月

 今年は「日メコン交流年」。アジアの大河メコン川を抱く国々、ミャンマー、ラオス、カンボジア、タイ、ベトナム5ヶ国と日本との、政治、経済、文化、観光等、さまざまな分野での交流が行われることになっています。ODAによる経済援助だけではなく、日本の文化を広く紹介してゆくことも政府としては大切な事業なのです。

 実は現在、この原稿をベトナムのホーチミン(旧サイゴン)のホテルで書いています。この「日メコン交流年」イベントのオープニングを日本の伝統楽器による演奏で飾ってほしいという依頼を外務省から受け、先月はコラーレでもお馴染み、津軽三味線ユニット「あんみ通」が、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマーに、そして今月は私も制作スタッフとして同行し、二十五絃箏の中井智弥と尺八・薩摩琵琶の長須与佳のユニットで、タイのチェンマイ、ベトナムのハノイ、ホーチミン各都市で、演奏会やレクチャーデモンストレーションを行ってきました。

 昨日、ホーチミン市師範大学の講堂で今ツアーの最終演奏会を行いました。日本文化を学んでいる学生を中心に200人の会場は立見状態。「春の海」をはじめとする日本のメロディーや地元ベトナムで歌われている曲、楽器紹介、体験コーナー、こちらが感激するぐらいの熱い拍手とキラキラした笑顔がはじけます。アジア諸国で大人気の日本のアニメ「ドラえもん」はイントロを演奏しただけで大歓声、そして合唱! 日本において何の仕掛けもなくこんなに盛り上がるコンサートは制作者としてもなかなか体験できません。

 さまざまな海外公演に関わってきましたが、海外の方々の反応は実に素直でストレートです。表情、態度、言葉をど真ん中に投げてくれます。それゆえ公演当日を迎えるまでの膨大な下準備とそれに費やした労力が思いっきり報われるのです。芸能というものが笑顔を生み、その笑顔が明日のエネルギーに昇華し、そのエネルギーが社会をつくる。アーティストにとって制作者にとって、自らが携わる「芸能」の存在価値を再認識できることも海外公演の素晴らしさなのです。今回も何かが確実に伝わったことを実感しています。

 あらゆる事象がボーダレス化し、異文化や異なった価値観の流入が日常化する中、揺れ動く伝統と自らのアイデンティティー……次々に建築される高層ビル、500万台を超える日本製のバイクが大渋滞を生み、フィンランド製の携帯電話が街に溢れるホーチミン。夜7時のニュース等で日々刻々と推移するベトナム戦争の状勢が伝えられていた1970年代を鮮明に記憶する自分が、今あのサイゴンの地を踏みしめていることに感慨以上の想いを抱いています。窓外は35度、蒸し暑く、鳴り響くクラクションの洪水をかき分けて戦争証跡博物館に立ち寄った後、タンソンニャット国際空港からバンコク経由で成田に向かう予定です。

演奏終了後の挨拶

ハノイ、オペラハウスでの公演。演奏終了後の挨拶。(3月3日)

バイクと人で溢れるホーチミンの街中

ホーチミンの日常風景

演奏の後、学生たちと記念撮影の様子

ハノイ、ベトナム国家音楽院ホールでの演奏の後、ロビーでもみくちゃにされながらの学生たちと記念撮影。(3月2日)

学校から花束贈呈

ホーチミン市師範学校での演奏会。学校から花束贈呈。学生は大盛り上がり!(3月5日)

(2009年04月 COLARE TIMES 掲載)

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