ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い

【其の四拾参】時の流れと人の世は……

2006年9月

「甦るオッペケペー 1900年パリ万博の川上一座」CDジャケット

 沖縄に行くと“ウチナータイム(沖縄時間)”という言葉をよく聞きます。約束の時間通りなかなか事が進まない土地柄さぁ、というところでしょうか。もともと時計というもので時間を計るのではなく、太陽や月の動きや、花や生き物の生態から時を知る。単なる時刻ではなく、季節によって異なる衣食住のあり方を教えてくれている。……そんな生活を身体のどこかが覚えている島の皆さんと、時計によって刻まれた時刻によって生活のほぼすべてが規定される現代のライフスタイルとの噛合わない部分が生んだ言葉なのかも知れません。正直、私も時間を守り時間に追われる生活が大の苦手です。那覇空港を8時05分発の飛行機に乗る予定が、国際通り近くのホテルで目を覚ましたのが7時25発! 絶体絶命を覚悟したのに8時05分にはしっかり機上の人。国際通りから空港まではタクシーで約15分! 身支度に費やした時間は3~4分、(西)洋服の利便性を痛感しました。

 古典音楽や古典文学とお付き合いをしていると、明らかに「今」とは時の流れが異なっていたのだろうなぁ、と感じることがあります。もっとゆっくりじっくり生活と向かい合っていたように思えてなりません。例えば、ボタンやジッパーなどなくすべてを紐で結ぶ着物を着ることに費やす時間。脱いだ着物を四隅揃った四角形にたたむことに費やす時間……知恵と工夫、そして想像力を総動員し、日本の風土や生活スタイルに合った着物文化を創造した時間だったのかも知れません。

 「甦るオッペケペー 1900年パリ万博の川上一座」(TOCG5432)というCDがあります。明治20年代に自由民権運動を絡ませた「オッペケペー節」で一世を風靡し、日本の演劇界に大きな足跡を残した川上音二郎。妻の貞奴らと共に巡業した彼の一座は、パリ万博でも大好評を博したそうでうすが、その時現地で録音された貴重な音源です。長唄の「勧進帳」や「鶴亀」なども収録されています。また、明治末期から大正、昭和と活躍した歌舞伎の名優たちによる録音も数多く残されCD化されています。これらを聴くと、現代の思い入れたっぷりの洗練された演技や演奏に対比して時間も短く、実にアッサリしていることに気付きます。もちろん流派等による演奏スタイルの違いや録音機材の性能、お客様のいないスタジオ録音であることも充分に加味しなければならないと思います。しかしもしかしたら、このアッサリした表現の“行間”を読み、そして味わうだけの想像力が受け手の観衆の側にも備わっていたのではないか、そんなことを思うのです。今は一から十まで説明が必要なのではないかと……。

 想像力豊かな過去の日常生活が創り出した文化と利便性追求が価値観の現代社会が生み出す文化。このギャップの中で生きる私たちに今年も灼熱の太陽が照りつけます。

(2006年09月 COLARE TIMES 掲載)

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