ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い

【其の参拾七】新しい日本の音楽

2005年9月

 先日、「高校野球中継やってます」そんな張り紙のある喫茶店で、たまたま打合せをしました。日本の夏の風物詩、高校野球の応援にはブラスバンドがつきものです。元気のいい金管楽器の響きが耳について、打合せに集中できない自分がいました。ブラスバンド経験者の方はそんなこともおありかと? 僕は高校時代、サックスを吹いていました。体育祭の行進曲や表彰式での「勝利を讃える歌」の演奏、コンクール県大会突破に燃えた夏の練習、秋の文化祭コンサート……懐かしい思い出とともに、音程とかリズムとかテンポとか西洋音楽の基本概念をタタキ込まれた3年間でした。微妙な音程の狂いやテンポのズレを怒られて高校生なりにイライラしつつも、音楽(=西洋音楽)を成立させる背景に「なんて合理的で素晴らしい理論が存在するのだろう!」と感心しました。お陰で今ではクラシック音楽ファンです。ショパンのピアノ協奏曲第一番のCDの枚数を数えたら14枚ありました。……オタクです。

 そんな僕が、学生時代に出会い、そしてハマってしまったのが歌舞伎と文楽。現在の仕事の原点です。毎月通っているうちに、芝居の進行を担う義太夫節の魅力に取り憑かれ、お稽古を始めることになりました。師事した先生は現在人間国宝の竹本駒之助師匠。2002年の12月にコラーレでも公演した<ザ・忠臣蔵ナイト>で『仮名手本忠臣蔵』「殿中刃傷の段」を豪快に語って下さった女流義太夫の第一人者です。初めてのお稽古は、音楽=西洋音楽であった僕にとってまさにカルチャーショックでした。師匠の弾き語りに合わせて、まず「ついてゆく、繰り返す」の連続。師匠の口から出る言葉は、ハラとかイキとか間とか、まったく掴み所のない抽象概念ばかりで訳がわからない。何度稽古しても出来ないで叱られながらも、やればやるだけ感じる底知れない魅力から10年間続けたお稽古。いまだに自分の言葉で言語化できませんが、ようやく「ハラ」とか「間」が日本の伝統音楽の“ツボ”であることがわかってきたような気がします。

 日本の伝統音楽の最前線で活躍する多くの演奏家の皆さんが所属する<日本音楽集団>。邦楽のジャンルとか流派にとらわれずに、自分たちが携わる日本の伝統楽器でどこまで「今」の音楽を奏で、表現できるのか、1964年の結成以来、様々な実験に果敢に挑み数多くの蓄積をしてこられた皆さんです。「今」の音楽を演奏するには、日本の音楽とは概念の異なる西洋音楽的手法で作曲やアレンジされた楽曲とも向かい合わなければなりません。このことは、日本の伝統楽器の可能性をもさらに追求することにつながります。私たちが自らの文化的アイデンティティを見据えてゆくためにも、9月23日の日本音楽集団コンサート「和楽器の調べ」は大きな意味を持つことでしょう。また、日本の文化の多様性を象徴する様々な楽器を一同に見聴きすることができる絶好のチャンスです。素敵な秋の一日になることを祈りつつ。

日本音楽集団「和楽器の調べ」
2005年9月23日(祝) 開演19:00 コラーレ(カーターホール)

日本音楽集団「和楽器の調べ」

(2005年09月 COLARE TIMES 掲載)

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