ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い

【其の参拾伍】花見と三味線……我流考察

2005年5月

 翌日から4日間の沖縄出張。しかもその間の東京は雨の予報。「何が何でも今日中に!」と思い立ち、4月8日深夜、東京は世田谷、国道246号線から駒沢通りまでを結ぶ日本体育大学脇の桜並木に向かいました。そして満開の夜桜を心ゆくまで堪能することができました。都内でもとりわけのお気に入りスポット、人通りが少なくなる23:00以降、ゆっくりゆっくり通り抜けることがこの数年、自分流のお花見=年中行事になっています。

桜の写真

 沖縄の桜は寒緋桜。2月の上旬に開花します。花の色が濃く、花数も少な目、可憐な花なのですが、ソメイヨシノを見慣れている僕たちからすると少々「お花見」のイメージが異なります。沖縄の花と言えば、この季節何と言ってもデイゴでしょう! 大地にしっかりと根をおろした太い幹。桜と同じように開花するまで葉も何もないだけに、咲いた時の印象が強烈です。沖縄の青い空と真っ赤な花のコントラストに南の島の力強い生命力を感じるのです。大好きな花です。僕は沖縄の友人たちに毎年のように「この満開のデイゴの下で泡盛を飲みながら、三線を伴奏に島唄歌って花見がしたいので付き合って!」と頼んでいるのですが、今まで誰も相手にしてくれたことがありません。

 今年に入って早々から公演等で旅が続いています。千葉、茨城、群馬、福島、富山、石川、静岡、長野、岐阜、大阪、京都、広島、福岡、沖縄……その地域ごとに“顔”を持っていることをあらためて感じます。言葉、お酒、食材、料理、工芸、そして音楽。各地に伝わる民謡等は、その土地の自然条件や生活習慣の中からでなければ生まれ得ないオリジナリティを持っています。寒風吹きすさぶ津軽地方と、冬でも暖かい南の島とでは音楽の趣も大きく異なります。当然、踊りや歌の伴奏に不可欠の楽器も、その土地の音楽に即して改良や進化を遂げてきたと考えられます。

舞台で三味線を弾く演奏者の皆さん

 現在、三味線というと津軽三味線をイメージされる方が多いのではないかと思われます。太棹の力強い響きと哀愁の旋律は多くの人々の心を捉え、テレビ等のメディアにもこの数年盛んに登場しています。しかし、三味線は津軽三味線だけではありません。民謡の伴奏で活躍している三味線だけをとってみても、その地域ごとに様々な種類の楽器が使われているのです。また音楽ジャンルから眺めてみても、長唄や古曲等で使われる細棹から、常磐津、清元、新内、小唄、端唄、地歌等で使われる中棹、義太夫や民謡等で使われる太棹に至るまで(例外も多々あります)、一見同じ形状に思えても、その歴史、構造、奏法はまったく異なるのです。バイオリン奏者がビオラに持ち替えて演奏できるということは、三味線に関しては難しい。ジャンルが変わると手も足も出せない、まったく別物の楽器と言えるでしょう。

 「画一的」とか「金太郎飴」とか言われがちな日本ですが、そんなことはあり得ないと思っています(大型ショッピングセンターを併設した各都市の駅ビルを見るとあながち否定はできませんが……)。文化、こと楽器に関しては、実に多様な“顔”を持っているのです。その土地に咲く花と同じように、楽器もそれぞれの文化を象徴する、実に個性的な存在なのです。


こんな三味線も!
世界一の巨大三味線<豪絃>(七世杵屋佐吉所蔵)

 大正13年、四世杵屋佐吉が考案。菊岡松次郎制作。四世佐吉は西洋と日本の音楽を比較研究し、器楽合奏における低音部を充実させ、伴奏楽器だった三味線を唄から独立させて新しい分野を開拓しようとしたそうです。長さは約1.8m、重さ約30kg、土佐犬等の大きな皮を張り、十七絃箏の糸をかけています。
 弾いているのは、「伝の会」の杵屋邦寿!

長さは約1.8m、重さ約30kg、世界一の巨大三味線<豪絃>

(2005年05月 COLARE TIMES 掲載)

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