ラレコ山への道 小野木豊昭 古典空間への誘い

【其の弐拾六】うりずんの季節

2003年6月
 沖縄では入梅前の爽やかな季節のことを『うりずん』と言うそうです。沖縄はすでに梅雨入りしてはいるものの、今まさにそんな季節を迎えています。日本の楽器にとっても心地よい季節と言えるでしょう。邦楽器は季節、気温、湿度といった条件に実に敏感に左右されます。楽器そのものが「生きもの」なのです。

 例えば三味線。三味線の皮が猫か犬であることはご存知かと思います。いわゆる「胴をタタク奏法」を多用する津軽三味線は比較的丈夫な犬皮を用い、それ以外の三味線は、お稽古用の三味線等で犬皮を用いる以外は猫皮を用います。長唄三味線では、皮のことを「四つ(ヨツ)」と言っているようです。皮に四つのオッパイの跡がある……若いメス猫の皮が適していると聞いています。信長、秀吉の時代に琉球から渡ってきた三線(サンシン)ですが、大きなニシキヘビの皮が手に入りにくかった日本では、いろいろな動物の皮を張ってみたことと想像されます。中でも猫の皮が一番イイ感じだったのでしょう。その皮をナメしてナメしてカンカンに張るその繊細な技術は職人芸です。乾燥に強く、湿気に極端に弱い。すぐにパーンと裂けてしまうのです。裂けないまでも音が……。三味線のケースにはいつも乾燥剤。最近、野外イベントにおける三味線への出演依頼が結構あるのですが、出演者も私たちも神経ピリピリです。もちろん替三味線を持って行ってもらいます。

 対して尺八。これは乾燥に弱い。真竹を一端乾燥させて中に漆を塗って作る。一度楽器として、水分をたっぷり含んだ息が吹き込まれると吹奏楽器として落ち着くのでしょうか。逆に乾燥するとパリッとひびが入ってしまいます。楽屋では「演奏していないときは布を被せておくように」と奏者から指示があります。神経質な尺八奏者と神経質な三味線奏者が同じ楽屋を使わなきゃならないときは……!?

 お囃子で不可欠な大鼓(オオカワ)も乾燥派。奏者によっては電熱器持参の方もいます。雅楽の笙(ショウ)は、温暖派。常に電熱器等で暖めておかないと楽器が反応してくれません。かつて、ドライアイスの中で演奏する演出を提案したことがありましたが、即座に拒絶されました。

 概して邦楽器の世界では、長唄などを除き、複数の演奏者による演奏、つまり合奏を前提に伝承・発展してきた例は少ないと言えるでしょう。いわば一匹狼の世界です。演奏される環境―北方 or 南方、屋内 or 屋外、芝居 or お座敷、等々―楽器ごとに独自な発達を遂げたようです。

春過ぎて 夏来たるらし 白妙の    衣干したり 天の香具山 (持統天皇) 春が過ぎ去って夏がやって来たらしい。その証拠にほら! 洗いざらした真っ白な衣が干してある、天の香具山に!

 思わずこんな万葉集の和歌が浮かんでしまう季節。きっと日本の楽器たちも気持ちのイイ音を奏でてくれることでしょう。

(2003年06月 COLARE TIMES 掲載)
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